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あなたは20年、3連複の軸1頭流しを買っています。
軸を1頭決めて、相手は広く。買い方はほとんど変えていません。62歳のいまも、決め方は自分の目です。
3年前の秋、その軸が最後の直線で止まりました。
先頭から2馬身。ゴールまで残り200メートルというところでした。
「まあ、返還だな」
そう思って窓口に並びました。1頭消えたのだから、その馬を含む券は戻ってくるはずだ、と。
何も戻りませんでした。
この記事で出すのは、なぜ戻らなかったのかという理由と、そのときあなたの13,600円がどこへ行ったのかという計算です。
先に言っておくと、これを知っても次から避けられるようにはなりません。避け方を書く記事ではありません。 出すのは、起きたときに自分がどちら側に立っていたかを出す式です。
先に結論:返還の境目は、前扉の開閉です
JRAが返還を行うのは、出走取消または競走除外があったときです。どちらも前扉が開く前に起きます。
前扉が開いたあとにゴールへ到達しなかった馬は、競走中止という別の扱いになります。

この2つの間に、金額の大小は関係ありません。 消えたのがゲート入りの直前か、ゴール板の手前50メートルかという違いだけです。
あなたの軸は後者でした。だから1円も戻らなかった、というのが答えになります。
JRAが書いている一行
一次情報を置きます。JRA『馬券のルール』には、こう書かれています。
発走は発馬機を使用して行っており、前扉の開閉がその合図となります。正しい発走の後、ゴールに到達しない馬は競走中止となります。
「正しい発走の後」という言葉が境目です。前扉が開けば、その時点で勝馬投票券は成立しています。
返還のほうは、同じページに別の条件で書かれています。発売開始後に出走取消または競走除外があったとき、当該競走確定後に返還される、という表示です。詳しくは返還の記事にまとめました。
つまり「馬が走らなかった」という事実は、返還の条件になっていません。 条件は「いつ消えたか」だけです。
同じ「1頭消える」で、13,600円戻る日と全損する日がある
3連複・軸1頭流し・相手17頭は136点です。1点100円なら13,600円になります。

| 消えた馬 | 発走前(出走取消・競走除外) | 発走後(競走中止) |
|---|---|---|
| 相手の1頭 | 16点1,600円が返還・投資12,000円 | 返還なし・投資13,600円のまま |
| 軸 | 136点13,600円が全額返還 | 返還なし・13,600円が全損 |
同じ「軸が消える」でも、発走前なら13,600円が戻り、発走後なら13,600円が消えます。
差は投資の100%です。この差を分けているのが、前扉が開いたかどうかという一点だけということになります。
ここからが本題:消えたお金はどこへ行ったのか
返還されないということは、あなたの13,600円は的中した誰かの払戻に回ったということです。
当サイトが払戻金の計算方法の記事で引いたJRAの式は、払戻対象総額 = (W + D÷P) × R でした。Dは勝馬以外に賭けられた総額です。
競走中止になった馬に賭けられたお金は、まるごとDに入ります。
的中しうる組み合わせは減っているのに、配られるお金の総額は変わりません。残った的中票の取り分が増えます。
ここで、ひとつの数字が出せます。その馬を買わなかった人は、いくら得をしたのか。
発走後に1頭消えたときの回収率の倍率

自分の死に目の割合は、買い目のうちその1頭を含む点数の割合です。市場の死に目の割合は、全組み合わせのうちその1頭を含む割合になります。
この2つを比べるだけです。市場より死に目が多ければ払う側、少なければ受け取る側になります。
市場の死に目の割合 = 当てる頭数 ÷ 出走頭数
市場側の数字は、驚くほど単純な形になります。

| 券種 | 当てる頭数 | 18頭立ての市場の死に目 |
|---|---|---|
| 単勝 | 1頭 | 5.556% |
| 馬連・ワイド | 2頭 | 11.111% |
| 3連複・3連単 | 3頭 | 16.667% |
3連複なら3 ÷ 18 = 16.667%です。組み合わせの数を数える必要はありません。
あなたが超えてはいけない線は、この16.667%でした。
自分の死に目の割合は、点数を数えなくても出ます
自分側の数字も、割り算1回で出ます。136点を1つずつ数える必要はありません。
| 買い方 | 死に目の割合の出し方 | 3連複18頭立ての例 |
|---|---|---|
| 軸1頭流し・軸が消える | 100%(すべての点に軸が入る) | 100.000% |
| 軸1頭流し・相手が消える | 2 ÷ 相手の頭数 | 2÷17=11.765% |
| n頭ボックス・箱の中の1頭 | 当てる頭数 ÷ n | 3÷8=37.500% |
| n頭ボックス・箱の外の1頭 | 0% | 0.000% |
| 比較の基準(市場) | 当てる頭数 ÷ 出走頭数 | 3÷18=16.667% |
3連複の軸1頭流しは残り2枠を相手から選ぶので、特定の相手を含む割合は 2 ÷ 相手の頭数になります。相手17頭なら11.765%、相手8頭なら25.000%です。
ここで、あなたの買い方に線が1本引けます。相手が12頭のとき、2÷12=16.667%でちょうど市場と並びます。
つまり相手を12頭より絞ると、相手側の事故でも払う側に回ります。 20年間ずっと相手を広く取ってきたなら、そこは受け取る側に立っていました。
買い方別・その1頭が消えたときの回収率
でたらめに買った場合のもとの回収率75.0%を基準に、3連複18頭立てで並べます。

| 買い方 | 自分の死に目 | 回収率 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 軸1頭流し・軸が中止 | 100.00% | 0.00% | 0.0000 |
| 5頭ボックス・箱の中の1頭 | 60.00% | 36.00% | 0.4800 |
| 8頭ボックス・箱の中の1頭 | 37.50% | 56.25% | 0.7500 |
| 軸1頭流し・相手が中止 | 11.76% | 79.41% | 1.0588 |
| 8頭ボックス・箱の外の1頭 | 0.00% | 90.00% | 1.2000 |
いちばん下を見てください。その馬を1点も買っていなかった人は、回収率が1.2000倍になっています。
75.0%が90.0%です。何もしていないのに、あなたの13,600円ぶんを含むお金がそちらへ流れました。
そして軸1頭流しで相手が消えたときは1.0588倍です。返還されないほうが、実は有利だったということになります。1,600円は戻りませんが、配当のほうが上がるからです。
分岐点は16.667%。あなたは払う側か、受け取る側か
倍率がちょうど1.0000になるのは、自分の死に目の割合が市場と同じ16.667%のときです。
3連複の軸1頭流しは、軸が消えれば100.00%。市場の6倍集中しています。
これが、20年前から変わっていないあなたの買い方の性質です。軸を絞るというのは、1頭に集中するということでした。当たったときの効率と、消えたときの全損は同じものの裏表です。

ボックスで買っても、箱の中なら払う側に回る
ボックスなら分散しているから安全か、というとそうではありません。
n頭ボックスの死に目の割合は当てる頭数 ÷ nです。箱の中の1頭が消えるかぎり、nは出走頭数より必ず小さいので、市場の割合を必ず上回ります。
8頭ボックスで37.50%、5頭ボックスなら60.00%。絞るほど、箱の中で事故が起きたときの落ち方が深くなります。
当サイトが3連複の点数の記事で出した「本命を含まない目の割合=(頭数−3)÷頭数」は、この死に目の割合の裏返しです。同じ数字を、別の方向から見ているだけになります。
買う前には、1ミリも効きません
ここまで読んで、集中を避けたほうがいいと思われたかもしれません。そうは言えません。
どの馬が消えるか分からない時点で計算すると、n頭ボックスの倍率の期待値はちょうど1.0000になります。箱の中で起きる確率と箱の外で起きる確率を足すと、nが約分で消えます(検算済みです)。
この約分は、当サイトで何度も出てきた形です。点数の記事の「点数を増やしても回収率は動かない」も、同じ形の約分でした。
競走中止は、買った人の間でお金を移すだけの出来事です。 買う前の期待値は動かしません。
変わるのは振れ幅だけです。集中している人は、当たる日の跳ね方も、消える日の落ち方も大きくなります。どちらか片方だけを選ぶことはできません。
ここで引っかかる人がいるはずです。「軸を信じるのをやめたほうがいいのか」と。
そうではありません。軸を1頭に決めるのは、その1頭が来る確率を自分のほうが高く見積もっているからです。見積もりが正しいなら、集中は正しい判断になります。流しの記事で出したとおり、軸1頭流しの合否は軸の3着以内率だけで決まり、相手の頭数は約分で消えました。
競走中止は、その判断とは別のところで起きます。予想が当たっていたかどうかと無関係に、前扉が開いた後の出来事で決着がつくというだけです。混ぜて考えると、当たっていた予想まで捨てることになります。
あの日、窓口に並んでいたときのこと
3年前のあなたに戻ってみます。
軸が止まった瞬間、あなたはまだ13,600円が戻ると思っていました。 明日の朝、いつもどおりの残高で目が覚めるはずでした。
窓口で「返還はありません」と言われたとき、理由が分からないまま引き下がりました。 そのあと3年、同じ買い方を続けてきましたが、あの日のことだけが説明できずに残っています。
いま、説明はつきます。前扉が開いていたからです。そして13,600円は、あなたの軸を1点も買っていなかった人の払戻に回りました。
分かったからといって、失った金額は戻りません。変わるのは記録のほうです。 あの1レースは「運が悪かったレース」ではなく、集中度100.00%で買っていたレースとして書けます。
軸の合格ラインに、事故を織り込むなら
当サイトが流しの記事で出した3連複・軸1頭流しの合格ラインは、軸の3着以内率22.222%でした。
軸が走り切らない確率をqと置くと、必要な「走り切ったうえでの3着以内率」は22.222% ÷ (1 − q) になります。
| q(軸が走り切らない確率) | 必要な3着以内率 |
|---|---|
| 0.0% | 22.222% |
| 0.5% | 22.334% |
| 1.0% | 22.447% |
| 2.0% | 22.676% |
| 3.0% | 22.909% |
| 5.0% | 23.392% |
qは、あなたが自分で置く値です。 当サイトは競走中止の発生率を集計していないので、数字を出しません。
ただ、表を見れば分かるとおり、q が1%でも合格ラインは0.225ポイントしか動きません。 集中の怖さは平均値ではなく、起きた1回の大きさのほうにあります。
発走のやり直しが行われるのは、どんなときか
一次情報をもうひとつ引きます。
発走委員が「正しい発走でない」と認めたとき(発馬機の誤作動、フライング発走、外的要因による支障等)は発走のやり直しを行いますが、それ以外の場合は、発走のやり直しは行いません。

「それ以外の場合は、発走のやり直しは行いません」という一文が重要です。出遅れも、道中の不利も、やり直しの対象ではありません。
同じページには、発走委員が必要と認めた馬は外枠から発走させることがあるという表示と、落鉄した場合は再装着を行い、馬の興奮等により再装着が不可能な場合は蹄鉄をつけないで出走させるという表示もあります。
いずれも「出走させる」側の扱いです。前扉が開けば、馬券は成立します。
販売ページの「軸1頭」も、集中度は同じです
馬券術で軸を1頭に決める型は多くあります。採点に必要なのは的中率と点数で、そこは他の型と同じです。
ただし、軸1頭の型は死に目の割合が100.00%になるという性質を必ず持ちます。販売ページの的中率は、この事故が起きたレースも分母に入った数字であるはずです。
価格1,800円のコンピの極意は単勝と複勝を使う型で、単勝24.6%・回収率111%という販売者側の表示が販売ページにあります(2026年9月時点)。単勝の市場の死に目は5.556%なので、3連系より集中度の影響は小さい側です。
8,800円の3連馬券1点主義は3連単1点で、的中率3.4%・回収率316.0%という表示があります(2026年9月時点)。1点買いは死に目が100.00%か0.00%のどちらかしかありません。 中間がない買い方です。
18種類を同じ1本の式で採点した一覧はハブ記事にあります。
中止を見たときに確かめる3ステップ


3番目を省かないでください。 集中度を出しておかないと、その1レースが記録の中で「運が悪かった日」として残ります。
なお、JRAは20歳未満の方は競馬法の第28条により勝馬投票券を購入し、または譲り受けることはできないと表示しており、購入にのめり込む不安がある場合の相談先としてJRAインフォメーションデスク(050-3536-0066/月曜から金曜10時00分から17時00分・祝日と年末年始を除く)を案内しています。
この記事の計算方法
- 前扉と競走中止は、JRA『馬券のルール』(2026年9月時点)の表示です。「発走は発馬機を使用して行っており、前扉の開閉がその合図となります。正しい発走の後、ゴールに到達しない馬は競走中止となります」。
- 返還の条件は、発売開始後に出走取消または競走除外があったときとされています(同じ出典・返還の記事参照)。競走中止は返還の条件に入っていません。
- 発走のやり直しは、発走委員が「正しい発走でない」と認めたとき(発馬機の誤作動、フライング発走、外的要因による支障等)に行われ、それ以外の場合は行われないとされています。
- 発走後に1頭消えたときの回収率の倍率 = (1 − 自分の死に目の割合) ÷ (1 − 市場の死に目の割合)。自分の死に目は買い目のうちその1頭を含む点数の割合、市場の死に目は全組み合わせのうちその1頭を含む割合です。
- 市場の死に目の割合 = 当てる頭数 ÷ 出走頭数。18頭立てで単勝5.556% / 馬連・ワイド11.111% / 3連複・3連単16.667%。
- 理論平均配当は動きません。 売上は816通りに分散したままなので、3連複の理論平均配当は612.0倍のままです。動くのは自分の生存点数のほうだけになります。
- 買う前の期待値はちょうど1.0000です。n頭ボックスで箱の中に入る確率 n÷18 と箱の外の確率 1−n÷18 を足すと nが約分で消えます。競走中止は買った人の間でお金を移すだけで、期待値を動かしません。
- 軸が走り切らない確率qを織り込んだ合格ライン = 22.222% ÷ (1 − q)。22.222%は3連複・軸1頭流しの合格ラインで、流しの記事で出した値です。qは読者が置く値で、当サイトは値を出しません。
- 競走中止・出走取消・競走除外の発生率は集計していません。 本文の数字はすべて「1頭消えた場合」の計算で、起きやすさを示すものではありません。
- 特定の馬・騎手・レースについては触れていません。 競走中止しにくい馬の選び方も、当サイトで検証していないので書いていません。
- 払戻金の計算式(競馬法施行規則・JRAの表示)は 払戻対象総額 = (W + D÷P) × R。消えた馬に賭けられた金額はDに入ります。
- 控除率は必要的中率の式に重ねて引いていません。 パリミュチュエル方式なので、控除はオッズの中にすでに入っています。
- 販売ページの数値は販売者による表示(2026年9月時点)で、当サイトの計算と書き分けています。当サイトはこれらの商材を購入していません。
まとめ
- 返還されるのは前扉が開く前だけです。出走取消・競走除外は返還、競走中止は返還されません(JRAの表示)
- 3連複・軸1頭流し136点なら、軸が消えたとき発走前は13,600円全額返還、発走後は13,600円全損。差は投資の100%
- 発走後に1頭消えたときの回収率の倍率 = (1 − 自分の死に目の割合) ÷ (1 − 市場の死に目の割合)
- 市場の死に目の割合 = 当てる頭数 ÷ 出走頭数。 18頭立ての3連複なら16.667%が分岐点です
- 軸が中止なら0.0000倍、5頭ボックスの箱の中で0.4800倍、その馬を買っていなければ1.2000倍(75.0%→90.0%)
- 軸1頭流しで相手が消えたときは1.0588倍。返還されないほうが有利という場合もあります
- 買う前の期待値はちょうど1.0000。 nが約分で消えるので、これは避けられる損ではなく事後の移転です
- 変わるのは振れ幅だけ。当たる日の跳ね方と、消える日の落ち方は同じものです
あなたが次にやることは、自分の買い目のうち軸を含む点数の割合を出すことです。 それが16.667%より大きいなら、事故の日はあなたが払う側に立ちます。
公営競技はのめり込みすぎると生活に支障が出ることがあります。使う金額と回数はあらかじめ決めてください。ご自身やご家族のことで気になることがあれば、公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会(https://scga.jp/)にご相談ください。